【読書感想】センセイの鞄
あらすじ・概要
40目前で落ち着いた雰囲気の女性「ツキコさん」。ツキコさんの高校の恩師で、30以上歳の離れた「センセイ」。二人の切なくもあたたかい恋模様を描いたお話です。
満場一致で決まった、谷崎潤一郎賞受賞作。
感想
穏やかな時間が流れる二人をいつまでも見ていたい、そんなお話でした。
ツキコさんとセンセイは居酒屋で偶然再会し、たわいのない話をしていくことで距離が近づいてきます。ぽつりぽつりと会話を交わす、二人の距離感が絶妙でした。
肴の好みだけでない、人との間の取り方も、似ているのに違いない。歳は三十と少し離れているが、同じ歳の友人よりもいっそのこと近く感じるのである。
加えて、この小説の大きな魅力が、合間に出てくる食べ物が本当に美味しそうでした。居酒屋では「まぐろ納豆。蓮根のきんぴら。塩らっきょう」、冬の「湯豆腐」、キノコ狩りに行って「キノコ汁」...。
好きな人と美味しいものを食べながら、ただたわいのない話をする、結局それが一番の幸せなのだと感じさせてくれます。歳の差恋愛とか、40目前からの恋とか、そういうものが背景にありつつも、幸せの形に年齢とかは関係ありませんでした。
以下印象に残った言葉
「育てるから、育つんだよ」と、そういえば、なくなった大叔母が生前にしばしば言っていた。・・・大事な恋愛ならば、植木と同様、追肥やら雪吊りやらをして、手をつくすことが肝腎。そうでない恋愛ならば、適当に手を抜いて立ち枯れさせることが安心。