読書家になりたい

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幸福な人生を捨てて男が求めたもの 「月と六ペンス」

あらすじ

ロンドンで何不自由ない暮らしを送っていた男「ストリックランド」は、ある日忽然と行方をくらます。

安定した仕事、温かな家庭、それらすべてを捨ててでも、彼には挑まなければいけないことがあった。

後に芸術家の歴史に名を残す男の、正気と狂気が混在する生涯を描いた物語。

 

感想

「英文学の歴史的ベストセラー」というのを後で知りましたが、衝撃的な展開にぐいぐい引き込まれるお話でした。

まず、ストーリーがとても面白いです。

そして、訳者あとがきまで読んで改めてタイトルを見ると、「あぁ、なんて美しいタイトルなんだ」と感じる作品です。

 

幸福な人生を捨てて男が求めたもの

「ストリックランド」は人間性の欠けた男です。

身勝手に妻を捨てたことに罪悪感を感じていませんし、周りからの非難や貧乏な暮らしにも平気な顔をしています。

 

たいていの人間は他人のことなど気にしないと嘘ぶいても、本心からはそう思っていません

そう言う意味では、彼は人ではありませんでした。

自分の振る舞いがどれほど非難されようと気にしない人間を目の当たりにしたとき、わたしは息をのんで後ずさるしかなかった。

ちょうど、人の皮をかぶった化け物でもみたかのように。

 

そんな彼は、内側から湧き出てくる情熱的な何かを感じて、他者からの評価や富には目もくれず絵を描きます

彼の絵を物語の主人公が初めて見たとき、主人公は戸惑います。

なぜなら、後に芸術家の歴史に名を残す男の作品を見て美しいと感じるのではなく、人間性の欠けた男が描いたものに共感したからです。

 

物語で明確に示されていませんが、「ストリックランド」が求めたものは、世俗からの解放、自分の価値観だけの世界、そういったもののように感じます。

 駆り立てられるようにして自分の感じたものを伝えようとしている。・・・事実などどうでもいい。なぜなら身の回りにあふれる些末な事象の奥に、自分にとって意味があると思えるものを探し求めていたからだ。

 

「月と六ペンス 」というタイトル

私たちは普通に幸せな人生を歩もうとしたら、世俗の価値観を捨てることができません

周囲の評価を気にして、心の内側の感情を押し殺す必要があります。

 

しかし、周りからの評価を一切気にせず、真に自分の価値観で良いと思ったもののみを伝えたいという思いも人は持っているはずです。

世俗の価値観から外れた人に私たちは狂気を感じますが、同時に周りの評価など全く気にならない自分だけの世界を持つことに憧れも感じます

 

「月と六ペンス」というタイトルがそういったものを表現したのではないかと知ったとき、なんて美しいタイトルなんだと感じました。

(訳者あとがきより)

「(満)月」は夜空に輝く美を、「六ペンス(玉)」は世俗の安っぽさを表現しているのかもしれないし、「月」は狂気、「六ペンス」は日常を象徴しているのかもしれない。

 

以下印象的だった言葉

川に落ちれば、泳ぎのうまい下手は関係ない。岸に上がるか溺れるか、ふたつにひとつだ。

人はなりたい姿になれるわけではなく、なるべき姿になるのだ