【読書感想】ツバキ文具店
鎌倉で小さな文具店を営むかたわら、手紙の代書を請け負う主人公のお話です。
読み終えて、無性に手紙が書きたくなりました。相手のことを思い、言葉を選び、体裁を整える。その行為全般が本当に素敵だなって思いました。
手紙の代書は、最初「自分で書いた方が気持ち伝わるしどうなんだろう」って思ってました。けれど、どうしても自分では感情があふれてしまったりで、書けないなりの理由がでてきます。でも、相手に気持ちを込めて、思いを伝えたいというのは本物です。
それに、気持ちを伝えたい相手がいつまでもいるとも限りませんしね。伝えられず、ずっと胸の中に残ってしまうこともあります。
けれど、感謝の気持ちを伝えるとしたら、もらった恩を返す相手というのは、何も恩を与えてくれた人でなくともいいのだと思います。
誰かにおんぶしてもらったなら、今度は誰かをおんぶしてあげればいい。僕も、かみさんにたくさんおんぶしてもらったんです。だから今、こうしてあなたをおんぶできているんです。それだけで、十分ですよ
そうすればきっと、最初に恩を与えてくれた人も喜んでくれます。
物語全体が、こうした優しい雰囲気に包まれていてとても良かったです。最後の手紙は泣きました。
以下、印象に残った言葉
あのね、心の中で、キラキラ、って言うの。目を閉じて、キラキラ、キラキラ、ってそれだけでいいの。そうするとね、心の暗闇にどんどん星が増えて、きれいな星空が広がるの
よく見ると、花の色はすべて同じではなく、薄かったり、濃かったり、それぞれに濃淡がある。蕾もあれば、すでに花びらを散らしている花弁もあった。それぞれが、それぞれの歩みで咲いている。
花だけでなく、黒くうねるような幹も、細い弦のような枝も、ちらほらと芽吹き始めている葉っぱも、すべてが美しかった。こちらが心を開けば、それだけ桜も多くを語りかけてくるように感じた。桜と自分がどんどん親密になり、心の中で、私はそっと桜の木に抱きついていた。
【読書感想】人間の大地
大地は僕ら自身について万物の書よりも多くを教えてくれる。なぜなら大地は僕らに抗うからだ。人間は障害に挑むときにこそ自分自身を発見するものだ。
広大な大自然に比べたら、あまりにもちっぽけな人間という存在。どれだけ技術が発達し、自然の脅威を克服しようとしたところで、不意な災害によって甚大な被害が発生しています。
実際にパイロットとしてのキャリアを持ち、不時着して飢えや渇きに苦しむ極限状態を生きた著者の経験談は、とても印象に残りました。
困難な状況でも、一歩踏み出す勇気
危機的状況に陥ったときに一番苦労すること、それは考えることを止められないことという話があります。
困難を乗り越えるには今の状況を忘れる必要がある。けれど、脳みそが言うことを聞かない。頭の中がタービンみたいに回転し続ける。そこに救いをもたらしてくれるのは、一歩を踏み出すこと。一歩、また一歩。同じ一歩を繰り返す。確かな重みをもって大地を踏みしめる。
普段、何不自由なく暮らしている時には感じないが、もうだめだ、絶望の底に触れたと思った時にこそ見えてくるものがあります。たぶんそれは責任とか、役割といったものだと思います。たとえそれが、どれほどささやかな役割であっても、もう少しだけ頑張ってみようと思える理由があるのなら、また一歩を踏み出せる。
困難な状況で前も見れなくなったとき、こちらの本の存在を思い出せば、また前を見る勇気をもらえる。自分にとってそんな本でした。
以下、印象に残った言葉
僕に生きる喜びを教えてくれるもの、それは香ばしくて、舌が焼けるほど熱い朝食の最初の一口だ。牛乳とコーヒー豆と小麦の入り混じったあの味だ。・・・人はこの味を通して、自分の惑星の大地と結ばれる。
手の届かないところにある共通の目的によって同胞と結ばれたとき、僕らは初めて胸いっぱいに呼吸することができる。経験によれば、愛するとは互いに見つめあうことではない。一緒に同じ方向をみつめることだ。
コミュニケーションに悩む人の必読書 「LISTEN」
自分はコミュ障の自覚があるので会話やコミュニケーションについて書かれた本を色々と読んできましたが、ダントツでこちらの本が良かったです。
「会話がうまくなりたい」という思いの背後には、「相手に好印象を持たれたい」という思いが隠れていますが、こちらの本読むともっと深いところで「相手の言葉や感情に共感する会話がしたい」と思えました。
現実の会話はめんどくさいが、ネット上では孤独は薄まらない
スマホが普及した現代では世界中の人とつながれるはずなのに、孤独を抱えた人は増えています。なぜなら、ネット上で心の通ったコミュニケーションというのは難しいからです。
まず、現実での会話はめんどくさいことが多すぎます。こちらが知りたいこと以上の話や、どう反応したらいいか分からない話をされると困ります。反対に、SNSなら見たい情報を自分で決められますし、面白くなかったり不快な情報は無視やブロックができます。
けれど、つながるというのは双方向です。考えや感情を話せる相手がいて、自分も相手の考えや感情を聞く必要があります。SNSで自分の話したいことばかり話し、聞きたい情報だけ聞くだけでは心が通うはずはありません。
ただ、現実の親しい人との会話だからといって心が通っているとも限りません。
例えば、夫婦仲が悪くなる原因に「相手が何を言うか分かっているから」という思い込みがあります。「近接コミュニケーション・バイアス」というそうですが、相手のことならもう理解していると話を聞かずにいれば、すれ違いが起こるのは当然のことです。出会った日とずっと同じ人間なんていなくて、人の考えは日々変わるのですから。
相手が何を求めているのか考え、見ている景色や感情を想像しながら聞く
結局、この本を一言でまとめると「相手の話をしっかり聞きましょう」で終わります。話し手の語る内容を「自分の考えと合っている・違う」などと頭の中で判断しながら聞くのではなく、聞き手がいったん自分の判断を留保して話し手の見ている景色や感じている感覚に意識を集中させて聞く姿勢です。
会話をする際は「なぜ相手はこの話を自分にしてくれているのだろう?」と考えれば、相手が心の底で共感してもらいたい感情に気付けるはずです。意見の合わない相手でも、まずいったん相手の話を聞き、なぜそのような考えに至ったか知ることができれば、自分の成長にもつながります。
コミュニケーションに悩んだとき、まず相手の話を「聞く」ことの大切さを真に理解させてくれる素晴らしい本でした。