読書家になりたい

ボキャ貧が読んだ本の感想とか書くだけのブログです。

【読書感想】ある男

あらすじ

不慮の事故で亡くなった夫の遺影を、長年疎遠だった夫の兄が見たら「誰?」と言われる。DNA鑑定でも全くの別人であることが発覚する。

愛したはずの夫は、いったい誰だったのか。

 

感想

とても引き込まれるつかみから物語が始まりますが、内容はミステリーでなく、驚きの展開が続くわけでもなく、静かに人を形作るものについて考えさせられます。

 

遺伝、育った環境、愛するものの存在、公的な書類。画一的な自分なんてものは存在せず、その時々で自分自身はコロコロ変わっていきます

例えば、初めて入るバーで偽名を使い、嘘の職業、出鱈目な過去を話したところで、周りの人は何も不思議に思いません。自分ですらそうだったと思うようになり、嘘の言葉と自分自身が一体化していきます。

 

でも、嘘によって救われることもあり、自分自身を良い方向に形作っていくこともあります。小説だってフィクションだが、それで感動して涙を流すように。

他人を通して自分と向き合うってことが大事なんじゃないですかね。他者の傷の物語に、これこそ自分だ!って感動することでしか慰められない孤独がありますよ。

 

結局人はいろんなものに影響され、いかようにも変化していきます。この本を読めて良かった。心が柔らかくなれた気がします。

愛こそ、変化し続けても同じ一つの愛なのかもしれません。変化するからこそ、持続できるのか。